📚遺伝と平等 メモ

20240121

第Ⅰ部 遺伝学をまじめに受け止める

第一章 はじめに

第二章 遺伝くじ

第三章 レシピ本と大学

第四章 祖先と人種

第五章 生活機会のくじ

ルーマニアの孤児院の話。

反事実に基づく「原因」の定義で、xはyの原因だと述べることは、もしもxが起こらなかったら、yが起こる確率は違っていただろうと述べること。

この方法により比較する際にうまくいくのは、x（原因）をグループごとに異なるその他のあらゆる要素から切り離して取り出せる場合のみ。

無作為性が重要になるのはこのため。

そこには、メカニズムの理解はない。どんなメカニズムが働いてかはわからないが、とにかく差が出た、ということがわかるだけ。

第六章 自然によるランダムな割り振り

遺伝的に異なるきょうだいに社会的差異が生まれたとすると、遺伝子がそれを引き起こす原因であることの根拠になる。

あるグループの全員がバリアントXを引き継ぎ、その人たちのきょうだい全員がバリアントNot-Xを引き継いでいて、何かしらの差異があれば。

ただし、あくまでもわかるのは「薄い因果関係」。メカニズムが解明されるわけではない。

きょうだい間では、平均して50%のDNAセグメントを共有している。が、23の染色体それぞれで見てみると、大きく異なる染色体もあれば、ほとんど同じである染色体があったり、その比率はバラバラ。

異なる遺伝型をより多く受け継いだきょうだいのペアの方が、身長差は大きい。

遺伝率：異なる遺伝子を引き継いだことで起こるある部分（身長差など）の差異÷人々の平均的な差異

つまり、平均と遺伝の違いの比率

身長だと、80%

遺伝率の推定値は、遺伝子が人生の成り行きに因果効果を持つかどうかの基準になる。

身長差のかなりの部分は、遺伝的差異による。

家族内での差異は、一般よりも小さい。分布も中心に寄るのは自然なこと。が、高い遺伝率の身長に関しても、高い低いの分布はあるので、稀ではあるが高身長の親からとても身長が低い子どもは生まれうる。

遺伝率は、遺伝的に異なる人たちが、表現型の違いを示すかどうかを表す量。

遺伝率は集団によって違ったものになり得る。

とはいえ、その集団には当てはまるので、重要な指標と言える。

遺伝的差異はさまざまな社会的不平等を引き起こす。

第七章 遺伝子はいかにして社会的不平等を引き起こすのか

本書では、グループ内の個人差の理解に当てはまり、グループ間の平均としての違いの原因についてではない。

赤毛の子ども思考実験

ある国が赤毛の子どもが学校に通うことを禁止したとすれば、髪を赤くする遺伝子は識字能力を低下させると言うことができる。この識字能略の低さを遺伝のせいにするのは馬鹿げていると多くの人が思うはずだが、遺伝率を推定するために行われてきたのはこれである。

因果の鎖が長すぎる

風が吹けば桶屋が儲かる、的な話を鵜呑みにしてる。

髪を赤くする遺伝子が、

解析の階層が多層

因果の鎖の一部はDNA分子に関係しているとしても、限定的。多層であるがゆえ、その影響はほとんどない。

オルタナティブな可能世界

環境が変われば、つまり制度が変われば識字率はたちまち変化し得る。DNAの操作は必要ない。

これと対照的なのが、HTT遺伝子とハンチントン病。

両者は生物学的に直結している。HTT遺伝子は、ハンチントン病を引き起こす。

遺伝率解析やポリジェニックスコア解析は、それら単独では因果の鎖は長いのか短いのか、多層なのかそうでないのかはわからない。

優生学では、以下3つを主張。

因果の鎖は短く、その鎖の輪は知能の発達だ

その知能は生まれながらの特性で、細胞と生物学の階層で解析するのがベストだ

この鎖が断ち切られているオルタナティブな可能世界はディストピア

つまり、遺伝学と社会的不平等をつなぐ因果の鎖を、短くて、生物学的で、普遍的なものとしてとらえているということ。

遺伝的性質と教育を結びつけるメカニズムは、

どこにあるか？人々の脳の中。遺伝子が何をしてるかまではわからないが、どこで行なっているかと言えば、脳の中。

いつはたらくか？発生のごく初期。子どもが胎内にいるとき。でそれは、就学前には現れる。

何にはたらくか？基本的認知能力に。

一般実行機能は、ほぼ100%遺伝。かつ、学力テストでの生徒の成績を高い精度で予測できる。

ふたたび、何にはたらくか？非認知的スキルにも。中程度の遺伝性がある。

非認知的スキルには、成長マインドセットや知的好奇心、ぐりっとなんかも含まれる。

誰が？遺伝の影響はごく早い時期に現れるが、そこから時とともに遺伝の影響が大きくなる。社会環境との相互作用によって。

認知機能が優れていれば、同じ刺激でも親からより多くの認知的刺激を受ける。

アメリカでの数学の習熟度別の履修では、遺伝と14歳での履修が相関があり、履修と大学入学が相関する。ので、遺伝が大学入学に影響を及ぼす。

赤毛の子どもの思考実験の、因果の鎖が打ち壊されるのはどのオルタナティブな可能世界か。その可能世界で暮らしたいか。

第二部では、この構造ではない世界について考える、ということか。

第Ⅱ部 平等をまじめに受け止める

第八章 オルタナティブな可能世界

「あなたが、ある時代の、ある場所に生まれ育つとして、異なる遺伝子を受け継いでいたらどうだったろうか？」

遺伝への問い。

「あなたの遺伝型は同じだが、社会的、歴史的文脈が違っていたらどうだったろうか？」

環境への問い。

遺伝的原因と環境的介入との関係への誤解に基づいている。

遺伝的性質は社会の階層化の原因になりうる一方で、社会への働きかけにより、社会変化を起こすことはできる。

ここからふたつの問題が。

第一

遺伝型と表現型との関係を変える社会的・歴史的文脈が変化した例としてこれまでにどんなものがあったのか？

第二

人々の遺伝的性質と人生のアウトカムとの関係はどのようなものであってほしいのか？

いや、良い遺伝子とは？か。遺伝率の高いからといって、イコール不平等ではないやろう。個性的な、各々が違ってとんがってる、おもろそうな世界やな。

個性が発揮できる環境というのは、遺伝的差異が如実に現れる環境、ということ？

第九章 「生まれ」を使って「育ち」を理解する

ただし、身体的特徴に優れた人類を生み出したい場合は優生学に従った方がいい、ということになるよね。

第十章 自己責任？

遺伝的性質が人々の差異の源泉であると認める場合、人は自分の判断の責任をどれくらい負うべきか。

犯罪を犯した人の遺伝子が、元々暴力的であるなら、他の人を傷つけた責任を遺伝子に負わせるのは妥当か。

他の遺伝情報に関してはその影響を認めるが、犯罪を犯した人を罰したい場合には人は遺伝情報を無視する。

実際は、攻撃性や暴力性にとっては遺伝子が重要であるという科学的根拠がある。

研究対象は白人。

遺伝の影響があるとわかってるのにも関わらず、犯罪的な行為に対して遺伝性を認めないのは、人は犯罪者に対して責任を負わせたいかをまず決め、その決定のもと遺伝的説明を拒否するか受け入れるかを決めてる。

一卵性双生児は、遺伝子はほぼ同じで、育つ環境も似ているが、人生の成り行きは厳密に同じではない。

身長の非共有環境は、とても小さい。身長に関する自由の余地はほとんどない。

一卵性双生児が同士がどれだけ違うかが、人生の成り行きの潜在的主体性、つまり、どの程度自分の人生を自分自身が左右することができるかの指標になるとして、一卵性双生児の社会経済的な成り行きの違いに目を向けてみる。

すると、育った環境が違っても、似た程度になることがわかった。環境が同じ場合も然り。

遺伝的に受け継ぐものと環境から受けたものを切り分けることではなく、それらを総合した結果の成り行きを比べると、身長の違いと同じ程度の自由度しかないことがわかった。

「自己責任」に残された領分は驚くほど小さい。

保守派においてもリベラルにおいても、運による成り行きの平等化に対してのほうが、人間のコントロール下にある要因で生じた不平等を平等化するよりも受容的。

高校を卒業していない母親のもとに生まれるかどうかも、運。

社会経済的な成り行きの不平等は、運の要素が見逃せない。人間にコントロールできないが、その人自身に内在する、遺伝的性質という要因は、運でしかないので。

学歴などの社会的に重要な成り行きに遺伝の影響があると認めることは、平等主義に反することだと広く見なされている。

遺伝学は、非平等主義的な社会政策に利用されてきたから。

が、運が絡んでいると、その平等化には保守派もリベラルも比較的受容的。

人の成功に運が絡んでいることを認めようとしなくとも、遺伝の影響を拒否する傾向があったとしても。

遺伝的性質は、運の問題。とすると、その平等化には受容的な人の比率は高い、ということに。

第十一章 違いをヒエラルキーにしない世界

ホームレスでなかったり、発話障害がなかったりするのであれは、間違いなく幸運である。その運の中には、環境的なものも遺伝的なものもある。

発話障害に関しては受け入れやすいが、ホームレスになるかどうかに遺伝が左右するというのは受け入れられにくい。

おそらくわれわれは、人々のあいだの遺伝的差異を、人間の価値に結びつけずに語ることができる。差異が生じるのは仕方ないと開き直ることをせず、でも様々な人生の成り行きはすべての人に開かれているわけではないと認めることもできる。

社会的不平等と遺伝的差異について考える時の難しさは、DNAについて語る時に「価値」という言葉が「市場的な価値」と「内面的価値」で混同されるところにある。

経済的な成功が、その人の価値を決めるわけではないのに、混同されてしまう。

人間の優劣ともっとも結びつけられたのが、知能テスト。

初期の知能テストでは、

反平等主義を正当化するための定量的尺度として利用された。

点数が低ければ、道徳的にも欠陥があるとされた。

人間の価値を知るために参照すべき数値と位置づけた。

この歴史は、無視できない。この過去があるため、知能の測定は優生学的であると考えられるように。

が、知能テストはそういう過去があれ、差別的政策の効果を理解するための道具になると結論する人もいる。実際、重要。

今に続く優生学の負の遺産を拒絶し、人物の価値を教えるものではなく、価値があるとされる何かをその人が行えるかどうかなら教えてくれる道具として使っていければ。

同じ遺伝によることなのに、差異に関する理論は、知能に関することとろうに関することでは受け取られ方が違う。

知能に関しては、遺伝と関係があると述べると、存在する社会的不平等は自然なことで、避けられず、修正不可能だと主張していると取られる。

一方で、遺伝とろうが関係すると言っても、すんなりと受け入れられる。実際は、ろうに生まれることと社会的不平等とは関係がある。

人は修正されるべき問題ではなく、修正されるべきは、その人たちが参加しやすいように社会を作り変えることに対して後ろ向きな社会のほう。

また、修正されるべきは、社会的・経済的生活にすべての人が十分に参加できるように社会を作り変えることに対して後ろ向きな社会のほう。

遺伝は、ランダム。この「自然の偶発性」を、硬直したカースト制として具体化させないためにはどんな公共空間、労働条件、医療アクセス、法典、社会規則をどうすればいいかが問題。

第十二章 アンチ優生学の科学と政策

5つの一般原理

1 人々の生活を改善するために利用できる、時間、金、才能、道具を無駄にするのはやめよう。

優生学

遺伝の影響があるということで、介入による改善の可能性を否定しようとする。

ゲノムブラインド

時間、金、才能、道具を無駄にしようとも、ー遺伝的差異を無視する。

アンチ優生学

遺伝データを利用して、成り行きの平等化を進められるような介入の探究を加速しようとする。

社会科学研究は、時間と金の無駄遣いをしている、と言わざるを得ない。親族同士は遺伝情報を共有しているのでにていることが予想されるということが考慮されないまま研究されているから。開発された介入が遺伝的にリスクの高い人たちに対して有効かどうかを評価するのに役立つので、不平等をできる限り無くすという目標に近づくために重要な道具になるのに。

2 遺伝情報を、人々を分類するためではなく、機会を改善するために利用しよう。

優生学

遺伝的性質をもとに人々を分類して、社会的役割や地位に当てはめる。

ゲノムブラインド

人々が置かれた環境を考慮するのみで、社会的役割と社会的地位に対しては全ての人が同じだけの可能性があると思い込もうとする。

アンチ優生学

遺伝データを利用して、人々の潜在能力を最大化しようとする。

ポリジェニックスコアは、簡単に不平等を促進させうる。そのスコアをもとに機会を設定しているように見えて、実は排除することになっている、であったり、ポリジェニックスコアは過去の情報を使って未来を予測するので、人を分類するために利用されれば優生学のヒエラルキーに簡単に陥ってしまう。

親の遺伝とポリジェニックスコアは相関しているので、DNAを測定した結果に基づく選抜は、部分的には家庭の社会的ステータスに基づいて選抜していることでもある。

仮に学校においてのことを考えるとすると、アンチ優生学では、生徒の学習をより良いものにするために学校と教師は何をすれば良いかを知り、習熟度クラス編成が生徒間の不平等をどのように固定化するのかを明らかにするために遺伝学の知識を利用しようと主張するだろう。

生徒の学業の成り行きを調べるのは厄介な問題。立てるべき問いは、学校Xの生徒の成り行きは、学校Yの生徒の成り行きと比べてどう違うか？ではない。ある特定の生徒が、学校YではなくXに行っていたら成り行きはどう違っていただろうか？である。機械の改善に目を向けるべき。

3 遺伝情報を、排除のためではなく、平等のために利用しよう。

優生学

遺伝情報を用いて、医療システムや保健市場から人々を排除する。

ゲノムブラインド

遺伝情報を禁止だけして、それ以外はこれまで通りの市場システムを採用。

アンチ優生学

遺伝くじによらず、全ての人が包含される医療、教育、住居、賃貸借、保険のシステムを作り出す。

遺伝的に病気のリスクが高いなら、保険に入れなくしたりと遺伝情報を排除に用いることはあまりに容易なこと。これを防ぐためにできたGINAは、十分でない。分類しないという、ゲノムブラインドなアプローチ。それでは現に今ある不平等は消えない。

アンチ従属という、従属させないアプローチ。今あるものに当てはめるのではなく、個々人の特徴に目を向け、それに合わせてデザインする。遺伝くじや環境くじによらず、それを踏まえて誰もがアクセスできるようなユニバーサルな環境にコミットしなければ。

4 運が良いことと立派であることを混同しないようにしよう。

優生学

知能に遺伝の影響があることは、生まれながらに価値ある人がいる証拠。

ゲノムブラインド

価値があるとされるスキルや行動を発達させる遺伝には目をつぶるが、メリトクラシーは受け入れる。

アンチ優生学

遺伝的性質は、運。人が学校での成功で人生の成功・失敗が決まるというメリトクラシーの論理をくつがえす。

メリトクラシーの論理とは、その人はメリットを享受するに値する能力を持っているから成功できる、という考え方。

関係ないことなんてありえないはずの遺伝くじや環境くじに関係なく。

遺伝を無視した、能力主義的な考え方か。

人間の違いの中に遺伝の影響を受けていないものはない。ゆえに、社会的に成功している人は、自分の遺伝による影響と、環境による影響と、それによってたまたま報酬が高かっただけにすぎず、純粋に自分の手柄にできることは存在しないと言っても過言ではない。

5 自分が何物であるかを知らなかったとしたら、自分はどう振る舞うだろうかと考えてみよう。

優生学

生物学的に優れたものは、より大きな自由と資源を得る権利がある。

ゲノムブラインド

社会は、すべての人が同じ生物学的性質を持つものとして構築されるべき。

アンチ優生学

遺伝くじでもっとも不利な立場に立たされた人たちの状況が改善されるよう、社会は構築されるべき。

考えるために、「無知のヴェール」というジョン・ロールズの考えを利用。

誰もが同じ立場に立ち、正義の原理についてフェアに合意しうる仮想的な状況を想定。

「生まれつき恵まれた立場に置かれた人は誰であれ、運悪く恵まれなかった人たちの状況を改善するという条件のもとでのみ、自らの幸運から利益を得ることが許される」

遺伝による不平等は、それだけで不平等となっているのではなく、われわれの社会経済的な制度と合わさって起こっている。

遺伝くじをまじめに受け止めるなら、自分の手柄にできることはほとんどない。幸運な出来事の結果でしかない。

もしも遺伝くじの結果を知らなかったとしたら、あなたはどんな社会を望むだろうか？